読まない人も多いトリセツをいかに読んでもらうか、パナソニックの専門チームに聞いた

話を伺ったのは、エアコンのトリセツを担当しているパナソニック アプライアンス社 エアコンカンパニー エアコン事業部 商品開発部 機構開発課 主務 根垣美佐氏と、洗濯機のトリセツを担当しているランドリー・クリーナー事業部 技術統括部 開発管理課 主任技師 樋口史代氏のお2人。パナソニックの白物、いわゆる生活家電を取り扱う事業部では、製品ごとに専任のトリセツ担当者を配置している。専門の知識が必要ということももちろんだが、パナソニックではそれだけトリセツを重要なものとして考えているのだ。

トリセツを作るチームは、製品が完全に出来上がる前から、その製品がどういうものか、どういう新しい機能を搭載しているかを共有し、それをいかにユーザーに分かりやすく伝えるか半年以上前から議論を重ねていくという。

「エアコンでも、洗濯機でもそうですが、基本機能が記載された“ひな形”というものが存在します。それをベースにしつつ、新しい機能の説明を追加したり、お客様からの問い合わせが多かった部分を手厚くするなど、よりわかりやすい説明に書き替えていくという作業が中心になります」(樋口氏)

ランドリー・クリーナー事業部 技術統括部 開発管理課 主任技師 樋口史代氏

しかし、パナソニックの家電製品は、これまでなかった全く新しい機能が搭載されることも少なくない。そういうときは、ユーザーにどう伝えるべきか、かなり早い段階から取り組んでいく。

読まない人も多いトリセツをいかに読んでもらうか、パナソニックの専門チームに聞いた

「昨年発売されたドラム式洗濯乾燥機には、これまでにない画期的な機能『洗剤自動投入機能』が搭載されました。液体洗剤や、柔軟剤をあらかじめ本体に投入しておくことで、洗濯機本体が衣類の量などを検知して洗剤の量を計測、自動投入するというものです。

洗剤自動投入機能を新たに搭載すると聞いたのは、製品を発売する約10カ月ほど前でした。最初にこの機能を搭載すると知った時、これは大変なことになるなと(笑)。これまでにない全く新しい機能をお客様にどう伝えるのか、相当苦労しました。例えば、洗剤自動投入という機能の中で、その洗剤の量をあらかじめ設定できる機能があります。自動投入される量を少なめに設定するのか、標準、あるいは、多めにするのか、お客様ご自身で設定できるというものです。しかしそもそも、標準の洗剤量というのは、どれくらいを指すのか、きちんと説明する必要があります。

業界で初めて液体洗剤・柔軟剤の自動投入機能を搭載したドラム式洗濯乾燥機「ななめドラム洗濯乾燥機 NA-VX9800」本体の洗剤投入口。ここにあらかじめまとめて液体洗剤を投入する

標準の洗剤量というのは、各洗剤に記載されているのですが、使用量にばらつきがありました。今回は水30Lに対してどれだけの洗剤量が標準なのか、技術部門が検証したものを各洗剤メーカーに確認、その上でトリセツに表示しています」(樋口氏)

しかし、これまでのドラム式洗濯乾燥機にはない全く新しい機能だったため、その表示の仕方や機能の説明方法をどうするか、決定までにはかなり時間がかかったという。

「わかりやすさというのは、いろいろな考え方があります。例えば、標準の洗剤量を表示しないほうがわかりやすいという方、細かい洗剤量まで全て知った上で、自分で設定したいという方、その個人差にどこまで寄せるかというのも問題なんですね。今回は従来にない新しい機能ということで、発売前の製品を使っていただいていたモニターさんのご自宅に伺ってかなり綿密なヒアリングを行ないました。その上で、通常のトリセツとは別に独立した『かんたんガイド』を作ること、その中に洗剤の銘柄ごとの標準量を明記することを決定しました」(樋口氏)

洗剤自動投入機能をわかりやすくまとめた「かんたんガイド」代表的な洗剤・柔軟剤の標準量を表にまとめて表示した

発売前の製品を実際に使ってみて、様々なヒアリングを行なうモニター制度は、品質保証部という別の部署が行なっているものだが、製品を実際に使った生の声が聞こえるため、トリセツを完成させる上で貴重な意見だという。

「最終版ではないのですが、モニター機にもトリセツを付属しています。その上で、どこが分かりにくかったかなどのご意見をいただきます。ただ残念ながら、モニターの方でもトリセツを読まないという方は多いんです。まずは読んでいただく、そこが一番の目標であるということはずっと変わらないですね」(樋口氏)