ロボット工学の第一人者に聞く! ぶっちゃけ今のロボット掃除機ってどうですか?

――ロボット掃除機は、実際使っている人と使ってない人で認識の差に大きな違いがあります。使ったことのない人にとっては、未知のものというか。「ロボット」の部分があまりにも知られていないと思うんです。今回は、古田さんにロボット掃除機の仕組みをロボット工学の視点から教えてもらいたいと思っています。

古田 現行のロボット掃除機は大きく分けて2つのタイプがあります。主流なのは、サブサンプション・アーキテクチャ。「行動規範型AI」っていう昆虫ロボットのようなタイプですね。ルンバや日本の大手メーカーから出ている機種はこれになります。

――つまり春に発売されたパナソニックのルーロや、新作が出たばかりのシャープのココロボ、あと東芝のトルネオロボなんかもそのタイプですね。

古田 このタイプは条件反射だけで動く。とにかく動きまわって、ガンガンぶつかったり、ギリギリまで近づいたりして、障害物や壁を認識する。それを条件反射的によけ、また動きっていうのを繰り返してなんとなく大まかな地図を作っていくんです。簡単にいうと「昆虫」ですね。虫のような低知能の、動きまわるロボットです。

三角形を採用したパナソニックのルーロシャープのココロボ東芝のトルネオロボ

――なんかそういうと身もふたもないですが(笑)。

古田 もちろんそれだけじゃなくって、その昆虫に、いかに効率よく掃除するかっていう戦略プログラムが入ってる。まずとりあえず動きまわって部屋の形を覚えていくんですね。距離と何回ターンしたかをつかんでいくんです。人間でいうと目をつぶって手探りで歩いてる感じかな。何歩進んで、あっ、このへんに障害物あったから、とりあえずこういうときは右に何度曲がりましょうって大体部屋の形把握しながら進んでるのと一緒ですね。あのへん、行ってないなーってそっちに行ってね。あっ、今、ゴミをいっぱい吸ったな。じゃあこの辺を集中的に吸ってみるかって。

――それが現在主流のロボット掃除機なんですね。

古田 で、もう一方は「SLAM」(Simultaneous Localization and Mapping:同時に位置確認と地図化)を使った機種。

――日本では昨年発売された米国のネイトロボティクス社のボットバックや、ドイツのフォアベルク社のコーボルトですね。どちらもアルファベットの「D」のような形と、上部に丸いレーザーがついているのが特長の機種です。

ロボット工学の第一人者に聞く! ぶっちゃけ今のロボット掃除機ってどうですか?

古田 この2つの機種はその「SLAM」という技術を使ってマップを作りながら自分の位置を特定する。ぶつかったり近づいてはじめて障害物を見つけるんじゃなくて、最初に、ばーっと周りを見渡すんですね。それで、あっ、そのへんになんかあるな。じゃあこう行って、こう行こうかなって、全体をちゃんと見たうえで地図を作ってから戦略を考えて動く。ロボットとしてみれば、手探りの昆虫タイプよりも効率がいい。

コーボルトジャパンの「コーボルト VR200」米のロボット掃除機メーカーNeato Robotics Incの「ネイト Botvac」

――それはどのような仕組みで地図を作るんですか?

古田 レーザーSLAMを採用している。レーザーを発射して距離を測ってるんですね。レーザースキャナーは我々ロボット屋の中では一番確実で実用的といわれている高機能なセンサーです。ただレーザースキャナーはとにかく高額で、我々が使ってるものだと数百万円、安いものでも数十万円はする。

――ではなぜこの2機種はこんな低価格でレーザーを使えるんですか?

古田 我々が使うレーザースキャナーっていうのは数十本のレーザーが360度可動するんです。ミラーが動いて水平方向一気に全部スキャニングできる。だけどこの2つのロボット掃除機には、レーザーの発信機と受信機がそれぞれ一つしかない。レーザー自体は動かずに、本体が動くことによってスキャニングしてるんです。

――たしかに最初に動き出すときに、ぐるっと本体が回ってますね。

古田 まずそれで大まかにスキャニングしている。たった1本の距離レーザーセンサーだけで三点測量の原理で、ある程度部屋をマッピングしている。これは結構すごい技術だと思いますね。

――ではそうして最初に作った部屋の地図を元に走行してるんですか?

古田 そうですね。さらに動きながらもレーザーでマッピングは続けている。でもSLAMを使った機種も結局、その地図だけでは心もとないし、見えていない死角もあるから、グローバルに「全体を見る目」つまりSLAMの他に、ローカルに行き当たりばったりな動きにも対応する「近傍の目」が必要なんです。

ネイト Botvacは、ルンバなどのようにランダムな動き(左)ではなく、直線的で効率の良い動きをする

――地図があっても、行ってみて初めて気づくことがあるっていうか。

古田 そう。だから結局、他のセンサーもついている。両方なきゃいけないんですよ。それで「近傍の目」の部分は昆虫タイプと一緒なんですね。メーカーによってセンサーの違いはありますが、接触センサーや赤外線、あとは超音波センサーを使って感知してる。

つまり、スタート時になにも情報がない状態で、動きまわりながら手探りで地図を作っていく「手探りで動くタイプ」と、最初にまわりを見渡して、おおまかな地図を作ってからスタートする「事前に地図を作成するタイプ」。現行のロボット掃除機は、ざっくり分けると、この2タイプになりますね。